銀座 森岡書店にて2022年2月1日から6日間行われる【血となり骨となれ 絵本作家・戸田幸四郎が描いた、知られざる名作絵本展 】。
展示をより深くお楽しみいただくためのコンテンツ第二弾として、森岡書店 店主・森岡督行さんのインタビューを二週にわたってお届けします。
書籍はもちろん、デザインや近代建築物などさまざまな文化に深い造詣をお持ちの森岡さん。森岡さんの視点で一冊の書籍を紹介する森岡書店には、その独自のセレクト眼に惹かれ、海外からお越しになるお客さまも多いとか。
そんな森岡さんに戸田デザイン研究室について、今回の展示についてをお話しいただきました。インタビューをしてくださったのは前回に続き、清水屋商店 店主・清水洋平さんです。
【目次】
森岡さんはいろいろな出版社をご存知ですよね。その中で戸田デザイン研究室をどう捉えていますか?
森岡さん:
日本の出版文化って素晴らしいなあと思うんですよ。これだけ多種多様な本がデジタルの時代でも日々出版されていて、またそれを買おうという人も世界的に見たら多いと思います。
書店がなくなったと言っても各地にありますし、イベントなんかも行われていて、出版文化としては非常に豊かであると。ただちょっと自分としては違うなと言うところもあって。
ただ戸田デザインの書籍というのは、そういう出版の仕組みの中にあって、できることをやっている。そんなイメージが私はあります。同じものを繰り返し、その良さを伝えるため、信じて版を重ねていく。
森岡さん:
当たり前と言ったら当たり前のことなのかもしれないけれども、それをやるということの覚悟があるだろうと。
やはり出版社が取次ぎに卸して、とりあえずの売上というのは運営する上で大きいと思うので。戸田デザインには一つの覚悟があるから、それに対して私もこう一票投じたいと言うかね。そういう気持ちにはなりますよね。
清水さん:
売上とか利益を求めていくのであれば、一つでも多く早くいっぱい出して、それをどんどんやっていくことで目新しさがあって。ビジネスとしては、もしかしたらそちらの方が上手くいくのかもしれないですが。
森岡さん:
それは出版社として美しいですよね。ビジネスとして、最終的に機能的なものは美しくなると思いますから。
一番最初に出された『あいうえおえほん』は未だに主力として売られていて、多くの方が読んでいたり、知育絵本という言葉がなかった時代からずっとやり続けてきている。
それ以外にもいろいろあると思うのですが、森岡さんから見てこの戸田デザイン研究室のラインナップはどう見えますか?
森岡さん:
子どもに評価されるというよりも、子どもを持つ親が買いたいなと思う本なのではないか、という風に思うんです。子どもにこの本をパッと渡して、それで終わりではないような気がするんですね。
清水さん:
確かに今世の中で売れているとかベストセラーの絵本というと、子どもが欲しがるけれども、親や大人は「本当にそれでいいの?」みたいな感覚のものもあるのかなと思うんですが。
今のお話を聞くと大人が子どもに読ませたくなるというか、大人にとってもすごく魅力があって、だからこそ自分の子どもに触れさせたいという魅力があるんですかね。
森岡さんも親としての視点でもご覧になると思いますが、デザインとかテーマは独特なところがあるんですかね?
森岡さん:
デザインに圧力が無い、良い意味で弱いっていうかね。余白があって入って行きやすいのではないかなって思います。文字の量もちょうどいい、押し付けがないというかね。
そういうところが親にも選ばれているし、子どもが何の気なしに手に取って読んでいるという状況を作りやすいのではないのかなと思います。
清水さん:
本の特性上 右と左にページが開くとあって、それをうまく使っているような。
森岡さん:
はい、余白ですよね。
そして森岡さんが仰ったように余白が多いですし、表紙がそもそも白ベースで。そういった意味で主張が非常に強くないですよね。
これは書店さんから見るとインパクトがない、ということにもなるじゃないですか?もっと色の強いもので目立つようにとやるところを。
森岡さん:
そうじゃないですからね。引いて引いて本質を出していこうという風なデザインをされているんだろうなあと思いますよね。
清水さん:
子どもにおもねることがないというか。
森岡さん:
あぁ、そうですね確かに。「買ってください」って言っているわけじゃないですもんね、売り場の中で。
それを踏まえて、もう一回このラインナップを見ると どうですかね?
戸田デザイン研究室という出版社。
清水さん:
戸田デザイン研究室は1982年に初の絵本を出版されて 今年で40年になりますが、出版物としては50点くらいしか刊行していないのですが。
戸田デザイン研究室は1982年に初の絵本を出版されて 今年で40年になりますが、出版物としては50点くらいしか刊行していないのですが。
森岡さん:
日本の出版文化って素晴らしいなあと思うんですよ。これだけ多種多様な本がデジタルの時代でも日々出版されていて、またそれを買おうという人も世界的に見たら多いと思います。
書店がなくなったと言っても各地にありますし、イベントなんかも行われていて、出版文化としては非常に豊かであると。ただちょっと自分としては違うなと言うところもあって。
やはりそれは一冊の本のサイクルが非常に早いというかね。出てしばらくして書店から消えて出版社の倉庫に行って、もしかしたら断裁になってしまうという。そういうサイクルの中で成り立っている日本の出版文化の豊かさなのだろうと思いますが…。
ただ戸田デザインの書籍というのは、そういう出版の仕組みの中にあって、できることをやっている。そんなイメージが私はあります。同じものを繰り返し、その良さを伝えるため、信じて版を重ねていく。
清水さん:
お聞きすると ほぼ絶版になっているものがないと言うので、それはたくさんある出版社の中でもかなり難しいことでもあると思いますね。
お聞きすると ほぼ絶版になっているものがないと言うので、それはたくさんある出版社の中でもかなり難しいことでもあると思いますね。
森岡さん:
当たり前と言ったら当たり前のことなのかもしれないけれども、それをやるということの覚悟があるだろうと。
やはり出版社が取次ぎに卸して、とりあえずの売上というのは運営する上で大きいと思うので。戸田デザインには一つの覚悟があるから、それに対して私もこう一票投じたいと言うかね。そういう気持ちにはなりますよね。
清水さん:
売上とか利益を求めていくのであれば、一つでも多く早くいっぱい出して、それをどんどんやっていくことで目新しさがあって。ビジネスとしては、もしかしたらそちらの方が上手くいくのかもしれないですが。
戸田デザインさんはそうじゃなくて、一回作ったものをずっと作っていく。
森岡さん:
それは出版社として美しいですよね。ビジネスとして、最終的に機能的なものは美しくなると思いますから。
戸田デザイン研究室の絵本。
清水さん:
戸田デザインさんの刊行物は決して多くはないですけれども、そのラインナップが非常に個性的というか、すごく特徴があると思うんですね。
戸田デザインさんの刊行物は決して多くはないですけれども、そのラインナップが非常に個性的というか、すごく特徴があると思うんですね。
一番最初に出された『あいうえおえほん』は未だに主力として売られていて、多くの方が読んでいたり、知育絵本という言葉がなかった時代からずっとやり続けてきている。
それ以外にもいろいろあると思うのですが、森岡さんから見てこの戸田デザイン研究室のラインナップはどう見えますか?
森岡さん:
子どもに評価されるというよりも、子どもを持つ親が買いたいなと思う本なのではないか、という風に思うんです。子どもにこの本をパッと渡して、それで終わりではないような気がするんですね。
それだけだと本の良さが充分発揮されていないというか。親と一緒に子どもが絵本を読む時に、より良さが発揮できるタイプの絵本なのではないかなという風に 私は思ったりしますね。
清水さん:
確かに今世の中で売れているとかベストセラーの絵本というと、子どもが欲しがるけれども、親や大人は「本当にそれでいいの?」みたいな感覚のものもあるのかなと思うんですが。
今のお話を聞くと大人が子どもに読ませたくなるというか、大人にとってもすごく魅力があって、だからこそ自分の子どもに触れさせたいという魅力があるんですかね。
森岡さんも親としての視点でもご覧になると思いますが、デザインとかテーマは独特なところがあるんですかね?
森岡さん:
デザインに圧力が無い、良い意味で弱いっていうかね。余白があって入って行きやすいのではないかなって思います。文字の量もちょうどいい、押し付けがないというかね。
そういうところが親にも選ばれているし、子どもが何の気なしに手に取って読んでいるという状況を作りやすいのではないのかなと思います。
清水さん:
本の特性上 右と左にページが開くとあって、それをうまく使っているような。
森岡さん:
はい、余白ですよね。
清水さん:
開いたら左側に絵があって、右側に文章なりテキストがあるというような。
特に初期の『あいうえおえほん』『カタカナえほん』などは全部統一した構成になってますよね。
開いたら左側に絵があって、右側に文章なりテキストがあるというような。
特に初期の『あいうえおえほん』『カタカナえほん』などは全部統一した構成になってますよね。
そして森岡さんが仰ったように余白が多いですし、表紙がそもそも白ベースで。そういった意味で主張が非常に強くないですよね。
これは書店さんから見るとインパクトがない、ということにもなるじゃないですか?もっと色の強いもので目立つようにとやるところを。
森岡さん:
そうじゃないですからね。引いて引いて本質を出していこうという風なデザインをされているんだろうなあと思いますよね。
清水さん:
子どもにおもねることがないというか。
森岡さん:
あぁ、そうですね確かに。「買ってください」って言っているわけじゃないですもんね、売り場の中で。
根底に哲学がある。
清水さん:
ホームページを拝見するとモノづくりに対して二つのことを仰っていて、第一に自分たちが欲しいものを作る。第二に丁寧に作るということが本づくりの大きな柱のようですが。森岡さん:
やはり自分たちが欲しいものを作るというところは大切ですよね。自分たちが自分の子どもにまず読ませたいと言う純粋な気持ち、それが仕事になっていると。そこに無理がないと。それは大きいような気がしますね。
自分の子どものために作っているものだから、自信があるというかね。「最高の仕事をしました。」と本を手放すことができると思うんですよ。それって、実は結構大切なことだと思うんですよね。
清水さん:
自分たちの思いは別にして、これなら売れるだろうという気持ちではなく。
森岡さん:
そうそう。類書で何部売れているかとか、そういう発想の仕方はもう限界がきているのはわかっているんですけれども。でもそこをベースにしている出版社というのも多いと思うので。
やはり出発点が違う。哲学みたいなものがきちんとある。これは大きなことだと思いますよね。
清水さん:
今、戸田デザイン研究室を率いているのは戸田靖さんで、創業はお父様の戸田幸四郎さん。
靖さんにお話を聞いた時には、もともと商業デザイナーでグラフィックなどをやっていらっしゃった幸四郎さんが、突然というか 急に子どものための本を作り始めたという話だったのですが。それは今、森岡さんが仰ったような何かしら強い考えや哲学があったからですかね?
森岡さん:
やはりそうだと思います。自分の子どものために本を作りたい、あるいは自分の周辺の子どものために 自分が学んできたり、経験してきたことを投入した絵本を見せたい。そういう気持ちがまずベースにあるので。
やはりそこから派生してきている戸田デザインという会社なのではないか、という風に思うんですよ。その基本的なところにあるもの、理念企業。これ、大切だと思いますよね。
清水さん:
それがこの40年近く守られてきたというのも、またすごいですね。この40年って経済的にもいろんなことが日本で変わってしまったと思うんですよね。そこをブレずにここまでやってきた。
森岡さん:
そうですね。やはりもっと本も出そうと思えばね、何点も出せる環境にあったのではと思うんですが、そうはされなかった。またそういう戸田デザイン研究室に一票を投じるという気持ちの人がいたのでは、と思います。
清水さん:
基本的に戸田デザインの本を本屋さんで初めて知って手に取るとなると、白をベースにしたこのパッケージ…。
絵本コーナーって本の数がいっぱいあるじゃないですか?その中でこれを手にとる人というのは、何かを感じないと なかなか手に取らないですもんね。
今、森岡さんが仰ったようなことが本に乗り移っていて、それを感じ取った人たちが戸田デザインの本を守ってきたというか。
森岡さん:
ええ。本当にそうだと思います。
戸田デザインというのは、現状の日本の出版文化の心の拠り所となるという そういう未知標のような存在ではないかなと思います。
※【インタビューその2】では「名作絵本集」を選んだ理由をお話くださいました。
▶︎▶︎▶︎インタビューその2
【森岡書店展示に関するコンテンツ】
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▶︎▶︎▶︎戸田靖インタビュー