銀座 森岡書店展示に向けて 戸田靖インタビュー【その1】


銀座 森岡書店にて2022年2月1日から6日間行われる【血となり骨となれ 絵本作家・戸田幸四郎が描いた、知られざる名作絵本展

展示をより深くお楽しみいただくためのコンテンツ第一弾として、弊社代表 戸田靖が「名作絵本集」に込められた想いや私たち戸田デザインの成り立ち、考えなどをインタビューにお答えする形でお話いたしました。

インタビューをしてくださったのは清水屋商店 店主・清水洋平さん。
無印良品がスタートさせた書籍販売部門・MUJI BOOKSを立ち上げ、選書からコンセプト立案、企画・運営までマネージャーとして担当。その後独立され、本に関連した企画などを幅広く行う清水さん。

本に関わるプロの視点で引き出していただいた様々なお話をぜひご一読ください。





戸田デザイン研究室とは何なのか。


清水さん:
まず初めに 、やはり本に関わる仕事をしていると、たくさんの出版社さんとも出会えますし、いろんな出版社さんの本も扱っていくんですよね。そうすると「ここの出版社はこういうのが特徴だな」と思ったりするんですけれども。

一方で出版社さん自身がどういう思いを持っていたりとか、どういう考えを持っているかというのは一般の方々が知る機会がなかなかないので。改めて戸田デザイン研究室ってどういう出版社なのか、理念とか考え方などを教えてもらっていいですか?

戸田
もともと私の父であるフリーのデザイナーだった戸田幸四郎(1981-2011)が始めた出版社なので、どうしても本を作りたくて出版社を作った、という感じではないんですね。

幸四郎はいろんなデザインをしていたのですが、大量生産・消費していく中でずっと仕事をしていたので、「もっと後に残る仕事をしたい、消費されていくものじゃないものを作っていきたい。」という思いで始めたのが本作りであり、そこから始まったのが戸田デザイン研究室です。

なので実際、何の会社かわかりにくいっていうようなところもあって。ちょっとオーバーに言うと、デザインを通していろんな人たち人生を豊かにしていきたいと思っています。

子どもたちであれば、今の教育に馴染めないような感覚のある子たちも、私たちの本を見ると いろんな扉が開いたり何かのきっかけになれるとか。そんな機会が提供できたら嬉しいなあと思っているし、そういう可能性をたくさん秘めているので それを実現していきたい。

もちろん主力は出版ではあるのですが、それを実現していくためにいろんなことをやっていきたいと思っている。そんな感じで受け取ってもらえると嬉しいですね。

清水さん:
やはり出版社は出版することが絶対的な目的じゃないですか。出版社は日本に3000社以上あると言われているけれど、ほぼ99%はそういうことだと思うのですが。

今お話を聞いていると出版はあくまでも一つの方法である、というのはすごく感じました。

最初に出されたのは絵本『あいうえおえほん』だった。その頃から戸田さんが仰っていた子どもたちの可能性をどうやって実現させるのか、もしくは広げていくのか、みたいな考えはあったのですか?


1982年に出版した初の絵本『あいうえおえほん』


戸田
そうですね。子どものモノに対して「もっとこういうものがあったらいいのに」とか「何故こういうものはないのかな」とかと言う思いがたくさんあって。それを自分の手で作っていくし、作っていく時に何もそれを遮る物がないと言う。

そういう環境でモノづくりをしたいというのが会社の出発点なのでそれは初めからありますね。今も変わらずにあるという感じです。

40年経った今だから考えること。


清水さん:
ちょっと話が飛躍してしまうかもしれないですが、最初に本を出されたのが約40年前。当時の教育業界、絵本を取り巻く環境、もしくは子どもを取り巻く環境っていうのがあったと思うんですね。

それを見つめられながら、先ほど仰った足りないものとか、あるべきものがないって感じる状況があったと思うのですが。

40年やって来られて、現時点で見た場合に同じ感覚なのか?やはり時代で変わってきたところはありますか?

戸田
そうですね。やはり、かなり変わってきていると思いますね。

40年前、私はすでに20歳位になっていましたが、
もっと小さな頃に幸四郎が子どもの物を色々と選ぶ時になかなか気に入ったものがないとか、そういう思いがずっとあったようで。それで51歳のときに『あいうえおえほん』からモノづくりをスタートするわけなんですが。

やはり『あいうえおえほん』出版当時も子どもに向けたモノづくりでデザインがしっかり入っているっていうものはそんなに多くはなくて。

だからこそ出版
の素人というか、新参者が作ったものでも評価してもらえた。そういう状況ではあったと思いますね。

今は随分変わってきて、いろんな方が子どもの本作りもしていらっしゃいますし。そこにデザインの視点だったり、いろんな視点が入ってきて昔とは違ってきていると思いますね。

清水さん:
40年前は私の年齢的にはちょうど幼稚園ぐらいですから薄い記憶ですが、テレビの子ども向け番組が花盛りで、戦隊ものも含めてその手の本とかキャラクターグッズとか結構あってですね。
子どもはそっちに走っていくし、子どもが欲しがると親もそれを与えるっていう時代だったと思うんです。

ただ本当に親が子どもに読んで欲しいとか見せたいというものは、今考えたら無かったなぁと。まあ、まだおもちゃ屋さんが全盛期というのもあったと思いますが、キャラクターものが本当に多かったなあと思います。

戸田
高度経済成長の前後。そのあたりのモノ作りって、とにかく作って市場に出してみたいなところが優先された時代だと思うんですね。

だから子どものモノっていうと、本当にキャラクターものとか そういうデザインばっかりで。それ以外を探すのさえ難しいって言うぐらいだったと思うんですよ。

筆箱一つとってもキャラクターなどが付いてないものをなかなか探せない。銀座の文房具屋  伊東屋に行かないとそういう筆箱を探せないとか、すごく探していると輸入物を見つけたりとか、そんな時代ですね。

でもその時代は、子どものモノだけじゃなくて、例えば魔法瓶を買おうと思うとあの花柄の魔法瓶以外探せない。柄物が付いてない魔法瓶がないんじゃないかって言う。

その頃からすると随分デザインというものが一般の生活の中でしっかり出来上がってきたんじゃないかなと思いますけどね。

清水さん:
更にそこから10年経つとバブル経済が最盛期を迎えて、デザイン=何かを付加していくものであったり、機能も含めて色々とプラスしていくことで価値が生まれて行くような時代が長く続いたと思います。

ここ20年ぐらいむしろシンプルとかそういう言葉も最優先されて、デザインと言う視点では世の中にあるものは非常に洗練されてきているような印象を確かに受けますが。

そうなってくると、今、40年前に戸田さんたちが思い描いていたこと・考えたことに世の中が追い付いて来たというのか、親しくなってきていて。

特に子ども向けの絵本というところでいくと、戸田デザイン研究室は40年前はパイオニア、オピニオンリーダーみたいな形で、非常に際立った存在だったと思うんですよね。

今、世の中に少し多様性が出てきて、色んなものが子ども向けに出てきた。似たようなものが出てきたり「知育」という言葉ももう一般化してきているという状況だと、難しくなってくる面もあるのかなと思うんです。

戸田デザインは同じことをずっと言い続けてやっていることが存在証明であって、周りにとって評価されることだったけれど、今同じ事を言っている人が何人か出てきてしまって。

もちろんアドバンテージはあるけれども、絶対的な存在ではなくなってきている面もあるのかなと。

戸田
本当に仰るとおりで。だから我々が考えていることは、40年前に作ったモノをそのまま守っていくっていう事ではなくて、常に新しい考え方とか、時代の少し先を見たモノづくりとか。

これから世の中がどういう方向に向かって、何が必要で。ちょっと大げさな話になりますが、もっと人間は何を考えなきゃいけないかとか、人類はどういう風にして豊かな気持ちとか人生を送るべきかを考えながら次の事を作っていかないとならない。

そうしないと存在する意味もなくなってくるし、どんどん埋もれていってしまうし、会社として生き残っていくこともできないのではと思っていますね。

でもそれこそがこの仕事の面白さだと思うし、やっていて一番楽しいところでもあるので、前向きに考えていますけどね。

清水さん
世の中の関心ごとって移ろいでいくので、そこに対してどういう回答を用意するのかというのは非常にやりがいのあるというか、やらなければいけないことだと思います。

40年前に『あいうえおえほん』を出されて、それをずっと続けて世の中に提供し続けているっていうこと自体が一つの大きな価値だと思うのですが。

今のお話を受けて、これからの時代どうしなきゃいけないのかとか、何を考えなきゃいけないのか、人としてどうあるべきかというところを戸田デザインとして発信して行く場合、やはりそれは作品を作って世に出すということだと思います。

現時点とこれから少し先を踏まえて、作品づくりとしてはどういった所に力を入れていくのか。

今までのものを淡々とやっていくことが一番大きなことなのか、もしくは新しく生み出されたものを広げていったり、今はまだ見えてないけれども新しいものが出てくるみたいなところにいくのか…。

戸田さんご自身としては、どういう方向性や表現を考えていらっしゃるのでしょうか?

戸田
モノを作っている立場の人間として、モノを作るってことは一歩間違うといろんな負荷をかけることだと思うんですよね。

環境的なことを考えてもそうだし「たくさんいろんなものを作るということが良いこと」という時代はもうとっくに終わっていて。

だからよりしっかりと出す意味のあるモノを出さなきゃいけないし、できれば出したモノ全てに責任を持ちたいということは考えますよね。

自分たちが出した本、それがどの先どうなってしまうのかも考えるべきだと思うし。木工品を作るのであれば、それはもう木を切って作るわけなので、本当に100年使えるものを作るべきだし。そういうことはすごく考えますね。

ただ表現として、世の中に提案したい
とか、面白いよとみんなに見せたいモノもたくさんあるので、それはそれで止めたくないとは思うのですが。

モノを作っていく人間・生産するも人間は、みんなそこはしっかり考えなきゃいけないと思うし、私自身も大切な事になってくるかなと思っていますね。

清水さん
確かに今難しい時代になったのかなと思います。良いものが思いついた、作れそうだ、できる。だからそれを作って売ればいいという時代が長く続いていた。

今、戸田さんの話を聞いていると「いや、出すのはいいけれど、それがどれだけ影響があるのか」環境問題で言えばバタフライエフェクトのような。

戸田
ええ、ええ。

清水さん
資源を使っているとか、それがいずれゴミになってしまうとかいうことも今は作り手自身も考えていかないといけない。世の中に認められないというか、受け入れられないような雰囲気が今ありますもんね。

たくさん作っていっぱい売れば まあ儲かるのかもしれないけれど、それでは許してくれないというのもあるし。

作る人も一人の人間なので、地球に生きているものとして何か腑に落ちないことが出てくるっていうのは、これからもっと出てきそうな気がしますね。そこまで考えてやらなければならないのは、想像を絶する大変さだと思いますが。

戸田
考えるべき範囲はどんどん本当に大きくなっていますよね。
自分の会社だけ、なんて言うことじゃダメに決まっているし。自分の周りだけではなくて、地域だけでもないし、国だけでもないよねっていうのもはっきりしていますもんね。

そうしたら本当に地球規模なことじゃないといけないっていう気もするし…。コロナ禍でそこがますますはっきりしたっていう感もあって、なかなか難しいですけどね。

清水さん
戸田デザイン研究室の創業当初からの思いとしては、一人の子どもの可能性をいかに大きくしてあげられるかを提供していく、考えていくことだから、ある種の矛盾をしているというか。

そこに居る子どものために何が出来るかっていうことをずっと考えているけれど、それをやるためにはとても大きなことも気にしなきゃいけない。バランスのとり方が本当に大変だろうなって。

戸田
でも子どもに伝えることって、知識だけではないですもんね。

これもよく話していることなのですが、大事なのはこれから子どもが生きていくうえでの考え方というか、力というか。そこを助けられるようなものを届けなくてはいけないと思うんです。

だから一人でも多くの子どもたちにそういう考えを伝えられたら嬉しいし、そこから世の中変わっていくと言うかね。


子どもにおもねないモノづくり。


清水さん
ちなみに幸四郎さんが亡くなられた後、靖さんが作り出した作品も多数ありますね。特に印象的なのは『リングカード・シリーズ』。

どんどん種類も増えていってますし、出版社という見方をすれば あれを本と言うのかどうかという問題は一方であると思うんですけれど。

もちろん今の理念を聞いていれば、子どものために良いものを作るということであれば、それは別に本という形にとらわれる必要もない。このリングカードが生まれたのは世の中を見てて何か発想のきっかけ、ヒントがあったのですか?

戸田:
リングカードを出し始めたのは2004年、その時は幸四郎もまだ元気でやっていたんです。もともとリングカードを作るときには、幸四郎が手描きした線をそのまま型に起こしたりとか、まあいろんな試行錯誤があって作っているんですが。

ただ本当にありがたいことにいろんな人に受け入れてもらって、たくさんの子どもたちが手に取ってくれて「触りたい!持ちたい!」って言ってくれて、という状況になっているんです。何か一つの媒体のような存在になってきているんですよね。

だから、色々な種類が増えていいなと思っているし、いろんな可能性がある媒体だなって思っています。

清水さん:
では今後も増えていく可能性が大ですね。

戸田:
はい。今も数種類の制作が並行して進んでいますし、来年とかまた一つという感じで出来ていく予定です。

全8種類となった『リングカード・シリーズ』


清水さん:
実は私が戸田デザイン研究室の最近出たものを10年単位の中で見た時に「あ、すごいな」と思った作品があってですね。『Baby book(ベビーブック)』なんですが。

あれは赤ちゃんが産まれて、お母さん・お父さん産まれた子どものための記録の本ですが、あのデザインを見た時に「そうだよな」と思ったことがあったんです。

あれを使うのはお母さんであって赤ちゃんではない。そして子どもが大人になって20年、30年経った時に、またそれを手にする機会が出てきた時にも、あんまり可愛らしいのも…。

それに値段を最優先すればチープにしていくべきだと思いますが、紙の表紙でコーティングしてあげた方がいい。

そうした素材選びを含め、『Baby book』はキリッとしたデザインでもある。世の中にあるベビーブックとは全く違うものが出てきたけれど、「あ、これだな」と思いまして。

『Baby book』を作ろうと思ったのはなにかきっかけがあったのですか?それまで戸田デザインにありました?

2017年に発売した『Baby book』。表紙は布張り。


戸田
いや、初めての試みでしたが、そういう商品を望んでいるというか欲する声はよく聴いていたんですよね。ベビーブック自体は世の中ではとても使われていて。

子どもが生まれると一冊買ったり、今はスマホもあるのでアプリでそういう機能のものもあるし、いろんな種類があるのですが。

実際使ってみると、とにかくお母さんが書くことが多くて!もう週間しか持たないとか、ヶ月頑張って成長記録みたいことをつけていても、なかなかその後が続かない。

それが続かないと、笑い事ではなく、お母さんは本当に自分をダメなお母さんじゃないかって思ってしまったり。子どもを産んで体力もすり減らしているお母さんを追い込みかねないものだったりする、みたいなところも分かってきましてね。

そういうものじゃないものを提供したいっていうところから考え始まっていて。だからお母さんが書くことは本当にちょっとなんです。
子どもが生まれたときにいろんな人が見にきてくれたりしますよね。その時に一言ずつ書いてもらう。

やはりね、とにかく赤ちゃんが生まれると周りにも祝福感とか幸福感があふれる。それを寄せ書きのように書いていって、そうすると勝手に完成してしまうっていう、とても簡単なものなんです。

でもそれが20年、30年経って、子どもが自分の親から手渡されたりすると「こんなに自分が愛されいてたのか…。」という事が本当に手に取るようにわかって、なかなか感動的な本になるんですよね。良いものを作ったと自分で思います 笑。

みんなの想いを寄せ書きのように綴ります。


清水さん
「なかったんだな、これまで」っていう感じですよね。目から鱗のような存在でもあるし。

やはりこれまでの経験とか、ずっと持っている考え方があったからこそ ここに行き着いたっていうのもあるんですかね?

戸田
そうですね。これは森岡書店さんで展示される「名作絵本」にもつながるのですが。戸田デザイン研究室には、子どもにおもねるモノづくりをしないっていうのが当初からずっとあって。

最初に出版した『あいうえおえほん』も表紙に絵がないとか、カラフルじゃないとか出版当初はいろんな批判を受けたらしいんですが。

でも、ずっと使う、子どもと読んでそのままリビングに置いておけるとか、いろんなことを考えると こういう表紙が一番良いというようなモノ作り。

そういう考えも『Baby book』にはすごく反映されている。だから戸田デザインのいろんな考え方があれには詰まっているのではないか、そういう風には思いますね。


シンプルを極めた表紙


清水さん
ちょっと極端なこと言えば、戸田デザイン研究室の『Baby book』をちゃんと行政が配ればいいのにと思いますね。いろんな母子手帳とかありますけれど、普遍的な存在感がありますしね。

戸田
意外なことに、もう大人だけれど買ってくれた方もいて。今、お父さんとお母さんに思い出しながら書いてもらうとか、そんな形ですごく面白く使わせてもらいました、みたいなお話もハガキでいただいたり。ちょっと面白い展開をしてもらっています。

清水さん
それはいい話だし、面白いですね。確かに大人になっても使えるコミュニケーションツールですね。

戸田
そうですね、うん、うん。


音声でもお楽しみいただけます。




インタビューその2】では『戸田幸四郎名作絵本集』に関する話も満載!

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