制作時間の長さは妖怪レベル、と噂される戸田デザイン研究室。
そんな戸田デザインが『リングカード』の新作を手がけながら、どのようにイネさんとのプロジェクトを進めていったのか。今回はそのお話をお届けします。
今振り返ると、これが互いへの敬意と信頼をミルフィーユのごとく重ねていく日々の幕開けだったと言えるでしょう。
この縁は繋ぎたい。
突然ですが、縁というものは人間のコントロールの範疇を超えた不思議なものだと言われますよね。
確かにその一面は否めません。しかし、仕事の縁に関しては、自分の思いの強さに比例する部分も大きいように感じます。
ちょっと乱暴に言えば、"その縁を本気で繋ぎたいという情熱があるか?"ということ。
戸田デザインのディレクターとして、イネさんとの縁は必ず繋ぐべきという確信がありました。
その理由は、互いのデザインの方向性が近いなどの目に見える親和性だけではありません。
彼女自身が持つ、一人の人間・作り手としての奥行きの豊かさに心をつかまれたからです。
数年に及ぶやり取りを重ねた今、それはイネさんの強い意志に裏打ちされた知性と探究心、行動力と次々と言語化できます。
しかし、まだこの頃は、抗えない吸引力のようなものを感じている状態。そしてこの名付けようのない魅力・共鳴をお互いに感じることが、良い仕事を生んでいく燃料のようなものだと私は信じています。
この燃料を燃やし続けるために、次に何をするべきか?
それは自分の直感の論拠をとって、仕事として筋が通るようにすることです。
新作リングカードの制作を進めながら、イネさんがベルギーのメディアで受けたインタビューなどを読み、理解を深めていきました。
並行して「これは面白い!」と思うエピソードなどを抜き出しておき、戸田と逐一共有。
どんな形で共に仕事をするにせよ、制作をはじめ全てに戸田が関わることは確実。
イネさんと戸田をしっかりと結びつけていかねば、良いものは生まれません。
こうして土壌固めに勤しみつつ、イネさんが事務所を訪れた年の終わり、今度はこちらからメールを送りました。
「私たちは、あなたと何かを作ってみたい。良いアイデアが浮かんだら連絡します。」と。
素晴らしき哉、イネさんのフロー。
イネさんからは、すぐにお返事が届きました。
こちらの連絡をとても喜んでくださり、来春に再び日本に行くから話しをしようという流れに。一歩前進し、ひとまず安心です。
次回お会いする時には、何か具体的な材料を用意したい。
しかし、イネさんがどんなモノを作りたいのかを伺うまでは難しい…。
悶々としながら過ごしていると、イネさんから1通のメールが届きました。
添付ファイルには【proposal】の文字が…。
はい、きた。これ、きた。イネさんからの提案です!しかもベストタイミング!
もうYes!と連呼しながらメール開封。ジョンとヨーコの出会いばりに強烈なYESを唱えましたよ。
中身を見ると、彼女があたためてきた複数の絵本案が添えられていました。展開もデザインもきちんと考えられ、日本語もしっかりと入った内容。今回の新刊の原案も入っていました。
新刊の出版点数を優先する出版社なら、どれも迷いなく採用するレベルの高さです。
しかし、せっかく弊社を選んでくれたのなら、同じゴールに向かって共に磨き上げられるテーマを選びたい。
それには日本の旬を描いたテーマがぴったり来るように感じました。
実際にイネさんとお会いして話を進めていくと、互いに同じテーマが良いという結論に。
四季の食べ物を描くのだから4冊セットの絵本にしよう、販売価格はこのあたりで抑えたい等、具体的な構想についても意見を交わすことができました。
ここまでの流れを思い返しても、イネさんのアプローチは実に配慮と決断力に溢れたものでした。こちらが別の新作に取り掛かっている間はあえて時間を置き、ベストなタイミングで提案を送る。
一見、当たり前のように感じますが、このフローによってイネさんへの信頼感は格段に大きくなります。同時にこちらもしっかり応えなければと、身が引き締まる!
対話を重ねる度に信頼感が増し、共に仕事が出来る喜びを深めていける。そんな思いを胸に、いよいよ共作がスタートします。



