『TRIO APARTMENT(トリオ・アパートメント)』はこうして生まれた! ディレクター日誌【その4】

ひとまず試作ができたところで、idontknow.tokyoさん、アシストオン店主 大杉さんの皆さんとアイデア交換をすることに。
 
この打合せは本当に素晴らしい時間でした。既にお伝えしていた通り、互いに作るモノの本質を妥協なく見る・考えるという部分で、 idontknow.tokyoさんに敬意とシンパシーを感じていました。
 
そしてアシストオン店主 大杉さん。モノやデザインに留まらないあらゆる分野への興味・造詣の深さ、飽く無き好奇心と豊かな感性に裏打ちされた視点。そしてお付合いの長さなどに左右されずあくまで中庸を保つ姿勢は、数々の作り手たちの道しるべとなってきました。もちろん弊社もそのひとつ。

このメンバーでのアイデア交換が面白くならない訳がない!
最初の試作から『TRIO APARTMENT(トリオ・アパートメント)』に変化していく珠玉のハイライトを ここでご紹介したいと思います! 

■窓に見えたカードの形が…
 
初めて試作をお見せした日、「おー!」という嬉しい歓声と共に思い思いにカードを手にする皆さん。
ふとidontknow.tokyo 治田さんがカードの形に注目してくださいました。「この独特の丸みがかわいいですね〜。」そう言ってカードをどんどん整列させていきます。すると治田さんをはじめ皆さんから「これ、窓みたいだね。」という感想が次々に。
 
「窓」…。このワードを聞いて私は「きたーーー!」と心の中で叫びました。
「窓」のイラストは弊社作品の中でも度々描かれており、どこかプロダクト的なデザインの匂いがすると評価いただく弊社デザインにとって大事なモチーフだと考えていたからです。 これは使える!
ならば思い切って、という流れになり ホタテのような形から窓型に変身を遂げたのです。
 
 
『あいうえおえほん』(1982年出版)より

 
 さらにカードの形が窓になったことで、グッとこの作品の世界観が見えてきました。
「カードが窓の形しているんだから、なにか建物的な要素が必要だよね。」全員の心に同じ思いが芽生えていました。
 
私も手元に置いていた『HINGE』(詳しくは【その1】を読んでください。)に自然と“Appartment(アパルトマン)" と書いていました。皆さんに「例えばフランスのアパートのような感じですかね?」と尋ねてみると、「そうそう、トリオ・アパートメントだよ!」という流れに。
 
まさにこれがブレイクスルー!ここから一気に方向性が明確になり、制作の勢いが増していったのです。
 

■【仮装】で楽しく、パパ視点の優しさもプラス。
 
「天使」「悪魔」「人間」の3種のイラストがゲームの勝敗の行方を左右する『TRIO』。
 
当初「悪魔」は弊社イラストの鬼を悪魔風にカスタムし、「人間」には大人のイラストも存在していました。
まず「人間」のイラストに対し、皆さんから「やはり抜群に子どもの絵がかわいい…」と言われました。
 
そして現役で小さなお子さんを育てているパパ、idontknow.tokyo 青木さんがこんな意見をくださいました。

「大人が困った顔をしているイラストを見て 子どもたちが笑うのはちょっと切ない。そしてお医者さんなどの職業がわかるようなイラストは、なにか意味を含んでいるようにも感じてしまうかも。」と。
 
確かに…。こちらとしてはバリエーションを出すだけのつもりが、意図していない意味が出てしまう。これは俯瞰で見ないと気がつけない部分です。

 
 
これがその大人たち。

 
前述のようなことを含め総合的に考えると、やはりイラストは全て子どもでいこう!ということになり、議論の的は最大の難関であった「悪魔問題」に突入。

かわいいけれど、今のままでは鬼っぽさが拭いきれない。天使のイラストとの雰囲気も違ってくる。想像以上にこの悪魔パートは全員の頭を悩ませました。 
 
君たちには悩まされたよ…。

 

この悩みを一気に解消したのが【仮装】という設定でした。

イラストが全て子どもになるのなら、このアパートの住人は全員子どもになる。その子どもたちが「天使」や「悪魔」の仮装をしているということにするのはどうだろう?
プレイする子どもたちもさらに親しみやすく、デザイン的にも愛らしさが増すではないか!!そして無事に今の形に着地したのです。
 
さらに忘れてはならないのが、子どもたちの多様な表現。黄色い肌の子、褐色の肌の子、白い肌の子が  それぞれに似合う装いをしています。男女の性別の境界もやや曖昧です。

これも現役パパの青木さんが「娘の小学校にも肌の色の違うお友達がいる。その子たちが遊ぶときに寂しい思いや違和感を感じるのは悲しい。」と言う率直な思いを話してくださったことで開けた道でした。
 
代表作『国旗えほんシリーズ』を作った弊社の戸田も、作品を手にしてくれた方々にさまざまなボーダーを超え、互いの違いを尊ぶ心を感じていただくことを大切にしています。『TRIO APARTMENT』に住む子どもたちがこれだけピースフルになったのは、ある意味必然だったのかもしれません。
 
しかし、こうしたある種の観念的な要素を盛り込むことは、実はとても難しいことだと私は考えています。
まず、作り手たちの心から素直に湧き上ったものであること。そして「ほら、正しい考えだろう!」と言う押しつけを感じさせるのは避けたい…。
 
もちろん作るモノの目的や主旨によって考え方は変わってきますが、今回はまず楽しむことから始めるカードゲーム。
子どもたちが楽しく遊んでいく中で、“何か”を感じてもらう。何の議論も重ねずに一発でそのバランスを共有できる場であったことに、私は本当に誇りを感じています。 
 
 

楽しくてピースフル!


 
■ケースだけで物語が見える。
 
さぁ、残すはパッケージ。こちらも商品の印象を大きく左右する大事な部分です。アパートメントのコンセプトが固まってから作った試作1号はこんな感じ。これをベースに皆さんとアイデアを交換していきました。(何度も「ああでもない、こうでもない。」と手に取ってきたので、今やボロボロ。廃墟感が漂います。)
 
 
アパート型の試作1号

 
 
弊社のイラストの幅広さもよくご存知の大杉さんからは「アパートにふさわしい細かいデザインを入れた方が良い。
パッケージだけでアパートと認識できるような要素が必要ではないか。」とアドバイスいただきました。
 
確かに【25人の子どもたちが住む素敵なアパートメント】には、子どもたちの想像力をかき立て 大人も思わずかわいい!と反応するデザインが不可欠。
 
いつもは引き算のデザインが多く、かわいい要素をプラスするデザインの方向性に悩む戸田に、私は以前より温めていた参考クリエイティブをぶつけてみました。
 
それは映画『グランドブタペストホテル』。ロケ地、衣装、メイク、インテリア…飽く無きデザインの追求をするウェス・アンダーソン監督の作る世界に、どことなく弊社デザインとの親和性を感じていたのです。今回の制作にはうってつけのはず!

早速映画を鑑賞してくれた戸田。「よくわかったぞ。」とだけ言い残すと、黙々と360度アパートメントの作り込みを開始!
所々開いた窓から覗く子どもたち、ベランダにいる猫の親子、側面を囲む花壇、タクシーでアパートに到着する子ども…。
まるでヨーロッパの古いアパートのような心躍るデザインが次々とプラスされていきました。 

極めつけはケースを開いて現れる、低層マンション!!ケースを飾っておくだけでかわいい、そしてケースだけで物語が浮かんでくるような仕上がりになりました。
 
さらにidontknow.tokyo 角田さんからは建物感をプラスするように、土台をつける案をいただきました。確かに土台が加わるとグッとアパート感が増します。これなら店頭でも立てて陳列され、存在感も示せるでしょう。
 
ぜひ、土台もつけたい! しかしこれを実現するには、相当な技術を有する箱屋さんが必要。コスト面も懸念されます。
本当にできるのか不安に駆られていましたが、そこは戸田デザインの親方こと戸田。何か特殊なレーダーがあるのでしょう。よい職人さんを見つける才能が本当に長けているんです。
 今回も独自の嗅覚で素晴らしい技術を持った箱屋さんを見つけ、この形を実現してもらいました!
 
 
底に見える建物の土台。
  


低層マンション出現!


 
■自由を生むのは、余白。
 
こうして、私たちの『TRIO APARTMENT』が完成!
idontknow.tokyoの皆さんからも「ルールは何ひとつ変わらないのに、ここまで違う世界観になるとは…。」と嬉しい言葉をいただきました。
 
この一連のやり取りを見ていた私は、最初から全員が同じことを大事にしていると気がつきました。
それは【プレイの明確なルールはあるけれど、自由に遊べる余白もあること。】具体的な言葉にして確認したことはなかったのですが、この考えは一貫していたように感じます。
 
弊社の戸田は良く「子どもというのはスゴイものだよ。石ころひとつ、ミカンひとつあれば自由に遊ぶからね。きちんと作る・デザインしながらも、そういう余白があるものを作りたいんだ。」と言います。
 
どんなモノを作る時でも「手にする人みんなが同じ体験をしなくては」という思いは働くものです。もちろんこれは間違いではありません。しかしそれを追い求め過ぎてしまうと、ズレないための要素をギュウギュウと詰め込む傾向がでてきます。これは正解は作りだしても、それ以上の膨らみは生まれにくい。
 
そのバランスをいかに保っていくのか…。細かいやり取りを抜きにして、このさじ加減が共有できる皆さんと一緒にモノ作りをできたことは 本当に幸せなことだったと思います。 

実際 最初に完成品を手にした時、「自由に遊べる小さな箱庭みたいな製品になった!」と人知れず感激していました。
ルールに沿って遊ぶも良し、カードを並べて神経衰弱をしたり大家さんごっこをしたり…子どもたちそれぞれのイマジネーションを爆発させて欲しい!そう願える製品になりました。
 
 
さて、次回は遂にラストです。アシストオン店主 大杉さんによる 今回の深過ぎるコラボレーション考察をお届けして、有終の美を飾りたいと思います!
 
【その5】へつづく
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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