『TRIO APARTMENT(トリオ・アパートメント)』はこうして生まれた! ディレクター日誌【その2】

前回はなぜ弊社がidontknow.tokyoさんと『TRIO APARTMENT(トリオ・アパートメント)』を作ることになったのか。そのきっかけを早足でお伝えしました。
もうここからはみんなで話しあって、デザインスタートでしょ?と言う声も聴こえてきそうですが…いえいえ、その前に大事な通過点があるのです。
 
■毎度おなじみ、親方とのぶつかり稽古。
 
戸田デザイン研究室は、「こだわりが深いですね」というお言葉をよく頂戴します。これは本当に有難いことなのですが、当然ながら私たちは「さぁ、見てください このこだわり!」と思ってモノ作りをしている訳ではありません。
 
そもそも 戸田幸四郎(1931-2011)という一人のデザイナ―が、ひらがなの美しさまで伝える絵本『あいうえおえほん』を作りたいという思いから出発した弊社。『あいうえおえほん』出版から今日まで、いわゆる市場ニーズを第一とするマーケティング的なアプローチをしたことはありません。
 
あるのは 知育というジャンルにこそ、心を動かすデザインが必要だという信念。そして子どもたちに向けたプロダクトであっても 我々大人の心も動かすモノであるべき。という思いです。

こうして文字にすると妙にカッコよく響いてしまいますが…。本質からブレずに突き進むということは覚悟も必要です。
市場に寄せていく訳でもロールモデルがある訳ではありませんから、制作のみならず 細かいところから自分たちで切り拓かねばなりません。自然とオリジナルの工程を歩むことになります。

ましてや私たちは小さな集団。自分たちが心から「これだ!」と納得できるモノを出さなければ、あっという間に存在価値を失くすでしょう。

だからこそ、モノ作りでも取組みでも 新しいことに臨むときは【本当に我々がやるべきことなのか】。文字通り飽きるまで考えます。もちろん、今回の『TRIO APARTMENT』制作もそうでした。
 
・『あいうえおえほん』についてはコチラから:https://toda-design.com/?pid=106818699
 
弊社の原点『あいうえおえほん』

 
私はもちろん、代表である戸田も idontknow.tokyoさん そしてアシストオンさんへのリスペクトは、本当にたくさん持っています。だからこそ、責任を持ってお話を進めるべき。この思いは同じでした。
 
今までゲーム性のあるプロダクトに踏み込まなかった我々にとって、今回のコラボはどういう位置づけになるのか。
私たちのデザインが加わることで、idontknow.tokyoさんに取っても 我々にとってもプラスになるのか。
 
そうした本質的な事柄を戸田と繰り返し話し合いました。毎度のことながら、この作業は戸田=親方とのガチのぶつかり稽古。考えが十分でなければ親方に土俵際まで出されることもありますし、私の考えに説得力が高ければ 俄然と話が前進することもあります。
 
そしてこの稽古は結論が出るまで逃げることはできません。
トイレに行きたい瞬間やメールを書いている途中、親方発信でいつ稽古がスタートしても&何度同じことを聞かれても(←これ、重要!)へこたれてはなりません!本気なら、まわしはすぐに締めるべし!
 
 
親方こと戸田(右)、ワタクシ大澤(左)。稽古を離れた平和な一瞬。

 
既に【その1】で書いたように、このコラボは弊社の新しいモノ作りの素晴らしいチャレンジになり、優れた異業種の方々と一緒に作ることで 私たちのまだ知らない強みを引き出してくれるだろう。そんな確信が私にはありました。
 
それはオリジナルの『TRIO』にひとつの揺るぎない世界があり、絵本的なモチーフと強くマッチしてくるということ。さらに宣言してからカードをめくる、というルールが 子どもたちにとって大切な要素になるという思いがあったからです。
 
そしてidontknow.tokyoさんもアシストオン 大杉さんも、弊社のデザイン性や「出版社のようで出版社でない。」その独特な立ち位置も良く理解してくださったうえで、お声をかけていただいている。
 
これには戸田も強く共感を示してくれ「ぜひ前向きにお話をしてみよう!」という流れになったのです!
こうして私たちのぶつかり稽古は一旦終了。私は謹んで手刀を切り、idontknow.tokyoさんとアシストオン 大杉さんとのオンラインミーティングを待つこととなりました♪(ごっつぁんです!)
 
 
■どうなるか、やってみたい!
 
待ちに待ったミーティング。まだオンラインでのやり取りに慣れていなかった我々。スムーズに進むか少し心配はあったのですが、アシストオン店主 大杉さんの素晴らしいアシストのお陰で とても充実したミーティングとなりました。
特に心に響いたのが、idontknow.tokyoさんが自ら語られた『TRIO』を生み出す動機と制作過程。とても面白い内容なので、ここに抜粋していきたいと思います!
 
***** 
 
● なぜ『TRIO』を作ったか。
idontknow.tokyoさんがゲームを作るのはこれが初めてではありません。既に『CUBOID(キューボイド)』というボードゲームがありました。囲碁にインスパイアされたゲームで、グレーの盤の上で白と黒のキューブを戦わせます。
独特の奥深い世界にハマったファンも数知れず。「世界大会」と題したゲーム大会を催したり、ファンの間ではさまざまな“必勝法”も飛び交っているのだとか!
 
今回、新たなゲームを作るに当たっては『CUBOID』の持っている要素とは真逆にいきたかったそうです。
中学生以下、それこそ3歳くらいの子どもたちからご高齢の方まで みんながプレイヤーになって共にワー!っと盛り上がれるゲームにしたい。だからルールもシンプルで、複数のプレイヤーで楽しめるカードゲームを選ばれた。
そして大人が“必勝法”などを編み出せない=先を読むことが難しいルールであること。を目指していたそうです。
 
『CUBOID』についてはコチラから: https://idontknow.tokyo/game03.html
 
 
 
佇まいもおしゃれ『CUBOID』

 
 
● 要素は削り、世界を作る。
主にゲームの内容を構築するidontknow.tokyo 角田さん。ゲームを作る際に「オリジナルの世界」が内包されているかどうかを大切にされているそうです。単純に数が大きい方が勝ち!ということではなく、そこになにか独自の世界観やストーリーがあるものを目指されているそう。
 
当初『TRIO』も「やさい」や「さかな」など物々交換的にカードを取引して勝敗が決まる、"経済的なもののやり取りがある世界”を構築できるものを考えていたそうです。
しかし経済というのは複雑なもの。いつも「要素は極力少なく」を心がけているidontknow.tokyoが目指す形にはなりませんでした。
 
どうにか3要素くらいで楽しいカードゲームができないものか…。○△□などのカードを作り色々と試しながら、既にある3要素のカードゲームを調べていくと、懐かしの「坊主めくり」にたどりついたそうです。
 
ただ「坊主めくり」は、当たりの姫の札が出れば勝ち。ある意味、運だけが大きく作用し、自分の意志が強く介在しません。運で左右されてもいいけれど、もっと主体的なランダム性を加えたい!と考え「どのカードが当たるか宣言してめくる」というルールを加えることになったという訳です。

● 「あたしゃ神様だよ」の視点で深まる世界。
さて、残るはゲームの世界観とも密接に繋がっている3つの要素をどうするか…。3つの要素は勝ち負けを決めるという大事な機能も果たします。
 
初めは ○はプラスの点数、△はマイナスの点数…。などと、それぞれの要素に点数を持たせる案も考えていたそうです。
しかしこれはプレイ中に計算もしなければならず、小さな子どもたちだけではできません。それぞれのイメージも曖昧です。
 
一度記号から離れて3要素の中でのマイナスを担うモチーフを考えよう…待てよ、「悪魔」と言うのはどうか??
となると、プラスの役割は「天使」では??当初から考えていたオリジナルの世界観が、ちょっとファンタジーな神様視点で纏めあげることで すんなりと落ち着いていきました。しかもこれ、子どもたちにもわかりやすい!!
 
●   汝、宣言することを侮るなかれ。
細部まで練られた『TRIO』のルールの中で、最後の大きな盛り上がりを作るのは「宣言」でしょう。
伏せられたカードを前に、めくったらどのカードがでるかを宣言する。極めてシンプルな行為ですが、これは侮れない。
まずエンターテイメント性が増幅します。「天使!」「きゃー、悪魔だった!」という楽しい時間。
これは大人も子どもも同じように楽しめます。(カードゲームの王様・UNOだって「ウノ!」って言わなかったら案外味気ないのでは?)
 
そして宣言するということは、子どもたちにはちょっぴり勇気が要るものです。
実際にidontknow.tokyo 青木さんのお子さんのお友達は 最初はまったく宣言できなかっそうで、お母さんの方を助けを請うように見つめていたそうです。この気持ち、わかりますよね?
 
なにが当たるか宣言するということは、恐いこと。だってハズレ=失敗するかもしれないのですから…。
でも自分の意志をきちんと表明して当たったときは、すごく嬉しい!!それに失敗したって大したことじゃありません。
また挑戦すればいいのです!
 
大袈裟かもしれませんが、これは生きていく上でもとても大事な姿勢。自分の意志を育て 挑戦していくことでしか、未来は切り開いていけません。これを子どもたちに楽しく伝えていくことは、とても意味のあること。実に戸田デザイン研究室の考える知育とも近しい考えです。
 
 
*****
こうしたプロセスや子どもたちに届けたい意味を伺って、戸田も私の気持ちも もう前を向いていましたidontknow.tokyoさんとお互いの熱量も充分!
 
「未知数だけれど、まずざっくりとデザインしてみます!」
 
次回はまず、戸田と一緒に進めた初期デザインのお話から。ご期待ください!
 
【その3】へつづく
 
 
 



 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
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