戸田吉三郎回顧展 「これは裸婦か、哲学か。」を終えて

銀座 森岡書店と神田神保町 文房堂ギャラリーで行われた戸田吉三郎回顧展「これは裸婦か、哲学か。」
お陰さまでたくさんのお客さまにご来場いただき、大盛況のうちに幕を閉じることができました。お越しいただいた皆さまに、改めて心より御礼申し上げます。

今回、沢山の方に「なぜ戸田デザイン研究室が画家の回顧展を?」と言う質問をいただく場面がありました。

画家・戸田吉三郎(1928-2016)は弊社を創設した戸田幸四郎(1931-2011)の実兄です。
現在代表を務める戸田靖は戸田吉三郎の甥にあたり、吉三郎氏のご家族が数年前から遺作展の開催を考えていることを知りました。

最初のきっかけはご家族から遺作展の考えを聞いたことにありましたが、何より私たちを大きく突き動かしたのは戸田吉三郎の描いた絵の強さ。そこから垣間見える戸田吉三郎のメッセージに圧倒されたからです。

森岡書店 店主・森岡督行さんも、戸田吉三郎の絵から発せられる強いものを感じられ、今回共に回顧展を開催くださいました。


森岡書店での展示


戸田吉三郎は画壇の名声や評価、権威というものから距離を置き、自身の作品について語ることも資料を残すことも拒んだ画家でした。氏の作品には強い迫力と静けさが同居する独特な趣がありますが、描き込まれた情報量も少なく、万人に好まれる分かりやすい雰囲気の絵とは言えないかもしれません。

しかし戸田吉三郎の残した絵の数々は時代を超えて観る者の心に何かを問いかけ、揺さぶり、時に救うようなエネルギーがある。私たちが信じた氏の絵の力が、今回の回顧展にお越しくださった皆さまのお声からも明らかになったと感じています。


「自分の中の迷いを捨てた絵筆の運びに圧倒される。」と評してくださった画家の方、「こんな画家が存在したことに勇気をもらった。」と絵の前で涙を流した10代の画学生、「描かれているのは裸婦だけれど、もっと大きなものを感じる。」と1枚の絵の前で立ち尽くす女性、「この絵は滅多に見られるものではない。」と何度も会場に足を運んでくださった方々。

皆さまお一人おひとりから、素晴らしい感想をいただきました。

そもそも絵は鑑賞者の目と心で観るもの。これは生前、戸田吉三郎がよく言葉にしていたことでもあったそうです。

今回ご来場いただいたお客さまの感想は、等しく自分という一個の人間の目と心を通して発せられた言葉であり、他の誰にも紡げない尊い思いで溢れていました。
これぞ戸田吉三郎が理想とした形であり、芸術というものがジェネレーションやジェンダーと言った壁を超え、私たちの生きる力となることを示してくれたように感じます。

文房堂ギャラリーでの展示


戸田デザイン研究室はデザインの豊かな広がりを主軸に絵本やカード、木のおもちゃなどを作ってきた小さな会社です。
デザインと純粋芸術の世界は近いようで遠いものと言われ、私たちと絵画の結びつきも遠いものに感じる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし戸田デザイン研究室の理念は「心を動かすモノ・コトを届ける。」

今回、戸田吉三郎の作品をお届けすることができたように、私たち戸田デザイン研究室だからこそ飛び越えられる領域があるはずです。そう信じて、これからも大きな視点で心を動かすモノ・コトをお届けできたらと思いを新たにいたしました。

最後になりますが、今回の回顧展開催にあたり、長期にわたる取材や意見交換にお付き合いくださった戸田吉三郎氏のご家族の皆さん、そして突然の申し出にも関わらず温かいメッセージを寄せてくださった洋画家・野見山暁治さん、現代の視点から解釈くださりトークイベントにも登壇くださったキュレーター/藝大准教授の宮本武典さんに心より御礼申し上げます。

そして戸田吉三郎の絵の力を信じ、氏の作品とたくさんの方々を繋げてくださった森岡書店 店主・森岡督行さんに深く感謝申し上げます。


また遠くなく、たくさんの方に戸田吉三郎の作品をご覧いただく機会を設けることができたらと考えております。
その日まで、どうぞ戸田吉三郎の魂を心の片隅に留めておいていただけたら嬉しいです。


※文房堂ギャラリーさんのバーチャルギャラリーで、回顧展の様子をお楽しみいただけます!(公開期間は約1ヶ月です。)

※回顧展に先駆け行われた森岡書店 店主・森岡督行さんとキュレーター/藝大准教授の宮本武典さんの特別対談も動画でご覧いただけます。


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